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 月の盾 著:岩田洋季     【ライトノベル雑感】
2006/05/31 08:56

月の盾
「月の盾」
電撃文庫。 (→amazon  →bk1

あぁ、これは……これが自分が望む、待ち望んでいた岩田洋季だ。
感無量。
ラストこそ多少ご都合主義的ですが、それでもそこまでの過程は大変素晴らしいものでした。

正直なところね、現在も続いてる「護くんに女神の祝福を!」はもう投げ出してるんですよ。
最初はまだ「あの『灰色のアイリス』の岩田洋季だから、これからだよ」と希望を捨てないでいたんですけどね。
でもそれも4巻くらいまで来たところで、その希望は「護くん」という作品では叶わないであろうことを理解して。
「アイリス」よりも「護くん」の方が好きという人にとっては何の問題もないんでしょうけど、「アイリス」が大好きで電撃の作品の中では間違いなく5本の指に入る名作だと思っている自分としては単なるラブコメにしか見えない「護くん」では満足を得られないんですよね。
そんなわけで残念だけど、もう岩田洋季氏の作品を読むことはないのかな……と思っていたところで、この新刊。
期待半分不安半分、もしこれが自分に合わないようであればもう二度と氏の作品に触れる機会はないかもしれないと思いながら読み始めました。

その不安があっさり霧散したのは序盤の第一部。
詳細は省きますが、あやうく泣きそうになりました。
以前から何度も書いてる通り、自分は「泣ける」作品が大好きで、そういう作品に対しては他の作品とは違った敬意を払うことにしています。
なので、もうこの時点で自分にとってはこの作品は名作認定。
涙が出るまでに至ったわけでもなく、たったそれだけで?と思う人もいるとは思いますが、自分は「泣く」という感情を価値のあるもの、大切なものと考えているので、それ以外の感情とは全く重要度が違うと思ってるのですよ。

ストーリーは実の母親に虐待され、心を閉ざし切っていた一人の中学生の女の子が、天才画家となって味わう絶望から希望へと至る物語
その絶望から希望へと至る道の描き方は「アイリス」を彷彿とさせるもので懐かしさを感じたり。
正直なところ、絶望の方はちょっと生ぬるいというか、描ききれてないかなーとも思いましたけどね。
ただ、忘れちゃいけないのがこの作品は読み切りの1巻完結な作品だということ。
1冊の中でそれをやろうというのだから、ある程度描ききれない部分が出てくるのも仕方のないこと。

「月の盾」という意味深で、イマイチ意味を掴みづらいタイトルも読み終わってみると絶妙だったように思えてきます。
作中で少女が描く絵のタイトルでもあるんですけどね。
その意味が理解できると、なるほど、これは素晴らしいネーミングセンス。

唯一気になったのはその少女の名前がね……
うん、悪くないんだ、ただどうにも色んな妄想が浮かびやすい名前で(何)
国崎桜花っていうんだけどね(爆死)
桜花に関しては別にそれほど珍しい名前でもないし、まだアレなんだけど。
国崎はね……国崎は駄目だよ(爆死)
どうしても違和感が拭えなかったのは自分のせいだと分かっちゃいるんですけど、それでも!

ともあれ、久しぶりに読んで良かったと思える1冊でした。
これでまだ岩田洋季氏に見切りをつけずに済みます。
あとがきによると、今後はまた「護くん」の執筆がメインになるみたいですけどね(苦笑)
それでも時々でいいから、こういう作品を出し続けてくれる限り応援していきたい。
でも、そのあとがきも結構ショックだったなぁ。
もう「アイリス」のような作品は描けないって断言されちゃってますからね……
作家の方向性のようなものが変わってしまうのは、それが仕方ないこととは理解しつつもやっぱり残念だという気持ちが拭えませんね。
でも、ラノべに限らず、デビュー直後は荒々しく棘のある作品を出してたのに、作品を重ねるごとに棘がなくなっていくということは結構多いですしね。<一部エロゲ会社とか典型的
まぁ、だからホントに仕方のないこと、なんでしょう。


以下、ちょっとだけネタバレ追記。

他のサイトさんで「たかだか1枚の絵にここまで大きな事件を起こすことなんて出来ない」というような意見を見かけました。
確かにその通りだと思います。
でも、それは「一枚の絵」という部分しか見ていないからではないですか?
自分は絵画に対して特別興味を持っていませんけど、一枚の絵=一つの芸術作品、という認識は持っています。
ライトノベルの一冊も、ゲームの一つも、歌曲の一曲も同じような認識。
そういう、一つの芸術作品でこういうことは絶対起きないと言えるのか?
自分はそこにリアリティがないとは言い切れません。

「でも、しょせん絵だし」というのは表面しか見てないような気がします。
普段から絵画に興味を持ってない人にとっては単なる一枚の絵に過ぎなくても、そうじゃない人もいるはず。
今回最初に犠牲となったのは美大生の、普段から絵画に親しんでいて自らも絵を描いていた人です。
そして、他には早坂荘悟(の娘)という記号に囚われてしまった、早坂荘悟事件の遺族など。
そもそも、舞台は美術館です。
しかも、そこまで大きくも有名でもない美術館。
わざわざそこまでやってきて絵を見ようという人たちと「たかが1枚の絵」と思う人との間には、絶対的な差があると思います。
自分も、一枚の絵で自殺を考えたりすることはないと思う。
でも、一冊のラノべや一つのゲームで自殺を考える可能性は0ではないと思う。
つまり、そういうことじゃないかと思うんですけどね……
別にその意見は間違ってる!と声高に言うつもりはありませんけど、ちょっと気になったので、ね。