« ルカ ─楽園の囚われ人たち─ 著:七飯宏隆 | メイン | スレイヤーズvsオーフェン 著:神坂一&秋田禎信 »
 海の底 著:有川浩     【ライトノベル雑感】
2005/06/25 10:49

海の底
「海の底」
メディアワークス。 (→amazon  →bk1

「塩の街」「空の中」に続く、有川浩さんの3作目。
「空の中」と同じくハートカバー第2弾なわけですけど、2回目ともなると目新しさはあんまり感じないというか、むしろ、有川さんにはラノベのお手軽な装丁よりもハードカバーの無骨さとかが似合ってる気がする。

何はともあれ、内容。
相変わらず読みやすい文章で、先が気になるストーリー、魅力的なキャラ。
展開も起伏も王道ではあるけれど、しっかりとしてるし。
文句のつけようがない出来ですね、ホントに。
前作「空の中」も読み始める前は「これ、読み終わるのに何日かかるかなぁ……」と不安に思ってましたけど、いざ読み始めたら3日足らずで読み終わってしまい。
今回の「海の底」は2日間ってとこですね。
ハードカバーでありながらも、ラノベ的な読みやすさが全く失われていないどころか、むしろ、その辺のラノベよりも数段読みやすいというのが凄すぎ。

ストーリーに関して。
まずね、横須賀に巨大甲殻類が来襲して市民が食われるという冒頭部が最高すぎる。
一寸の無駄もなく、即座に本題に入れるのが凄いと思う。
「中盤以降は面白いんだけど、序盤がちょっとダルイ」みたいな作品が多い中で、いきなり序盤からテンションマックスの状態まで持っていって、そのまま最後まで突っ走ることが出来るのは多分才能なんだろうな、と思う。
普通の作家だとどうしても面白くなるための状況を作るために序盤で基礎を作ろうとしがちだけど、この作品の場合、もう最初の1ページ目でその基礎が作り終わっちゃってるんだよねぇ。
だからこそ、冒頭からいきなり目を離せない状況になってるわけで。
何度も言いますけど、ホント、凄い作家さんだと思いますよ。

構成に関して。
「空の中」では大人と子供、二つの視点から物語を描いていったわけですけど。
今回はそれを改良したというか、ちょっと変更点加えたというか。
前作同様に大人と子供という二つの視点、プラス、潜水艦の中と外という二つの視点を加えることで前作よりも更に多重的な構成になってて、これがまた上手いこといってるのです。
主人公的立場となる冬原と夏木も色んな意味で素敵なキャラだし。
どこかでこの二人はなんだかんだ言って子供だって意見を見かけましたけど、なるほど、その方が分かりやすい気もする。
要するに、潜水艦の中に取り残された子供達(冬原&夏木含むw)と、その救助及び巨大甲殻類の殲滅のために潜水艦の外で奮闘する大人達、という構図なのかも。
まぁ、冬原&夏木の二人は「空の中」での高巳と光稀に二人に近い立場であると思うので、完全に子供側に入れてしまうのもちょっと違うかなーとは思いますけど。

キャラに関して。
相変わらず、有川さんの描く大人は素敵。
「空の中」でも良いキャラがいっぱい出てきましたけど、今回はそれ以上に「良いなぁ」と思えるキャラがいっぱいで。
まず、潜水艦の中、冬原と夏木
良いですよね、いかにもな王道コンビで(苦笑)
自分はどっちかって言うと、冬原の方が好きかなー
こう、表面上はいかにも感情を抑制してるようで、実際は誰よりも強い感情持ってるとことか。

あとは子供達か。
代表格である望と圭介
望の方はアレだねぇ……「空の中」での佳江に似た位置かな。
一番びっくりしたのはわりと生々しい”あの日”の描写か(爆死)
よく考えると、有川さんって女性だからねぇ、この手の描写が生々しいのもある意味当然か。
巨大甲殻類来襲とか、自衛隊出動とか、あんまり女性らしくないストーリーなだけに、ともすれば忘れがちだけど、こういう日常の普段はあまり意識しない当たり前の描写がごく自然に書けるのはやっぱり女性なんだなぁ。
でもって、忘れちゃいけないのがラスト。
うん、こういうの大好き(苦笑)
「空の中」での高巳と光稀のカップルは正直なところ、そんなに感情移入できなかったというか、ラストの告白がどうにも狙いすぎてる感じがして興醒めだったけど。
これはいいねぇ。
別れの部分を見た時はちょっと意外な感じがしたけど、まさかこういうオチに持ってくるとは。
いやはや、女性は強いなぁ(何)

圭介はモロに真帆の役割演じてますよね(苦笑)
で、圭介と真帆の最大の違いは何かって言うと、性別の違いであり、背景の違いですよね。
真帆はなんだかんだで、女の子で、父親を失ったという背景もあり、同情っつーか、可哀想だと思える余地があったけど。
圭介は男であり、終盤まではこいつをフォロー出来る要素は皆無だからねぇ。
いやもう、序盤から糞ムカツクガキだとは思ってたけど、物語が進んで、頭の悪さが加速するにつれて、「ハッピーエンドで終わるにしろ、こいつだけは助けなくていいよ」とまで思ったりも(爆死)
ただまぁ、それでも最後の最後で色々と理解するところは悪くなかったですけどね。
てか、圭介は被害者なんだよねぇ……
この作品の中で一番アレで生きてる価値がないのが、彼の母親だと思うし。
いやぁ、ああいう親はホントに、なんだろう、死ねって思うよね(核爆発)
圭介のようなまだこれからな少年とかならまだしも、子供を産んで母親になってまでああいう腐りきった思考をしてる人間は生きてる価値ないと思うよ。
もうどうしたって、その思考は変えられないもん。
だからといって、死んだ方がいいって短絡的な思考もアレだと思うけどさ。

それ以外の子供組では……翔の話は正直、あまりにもありがちすぎるかなぁ(苦笑)
ダメじゃないけど、もう一捻り欲しかった。


続いて、潜水艦の外、大人組。
こっちはもうね、登場する大人のほぼ9割が良い人で。
明石に烏丸、滝野に芹沢とみんな素敵すぎる。
個人名が出てこなかった内閣とかはいかにも~な役立たずっぷりを発揮してましたけどね(爆死)
まぁ、敵である巨大甲殻類が特別強力な生物ってわけじゃないからねぇ。
あくまで警察の装備程度ではどうにもならないってだけで。
後半、自衛隊に出動命令が出たと同時に一瞬で殲滅作戦が完了してしまうところを見ても、あくまで「自衛隊が出動できない」という前提のもとでの脅威だから。
つーか、「空の中」でも政府とかが役立たずで無能だってことを描いてた気がするけど、もはや日本のお偉方というのは、イコール、有事の際に無能ってことでファイナルアンサーなのかねぇ(爆死)
イメージ的に何かが起きた時にいきなり有能になるとも思えんしなぁ……って、別にこういう時に出てくる内閣=現在の内閣じゃないんだけども(苦笑)

それ以外では、冒頭であっさりと殉職してしまう川邊艦長もカッコ良すぎ。
ただ、潜水艦の中と外と、二つが同時進行なわけだけど、あくまで事件解決に奔走したのは潜水艦の外の人達なわけで。
そういう意味では、「空の中」のように子供と大人、両方の立場から解決に至ってるわけじゃないのがちょっと不満というか、物足りないような気がするかも。
潜水艦の中での話はあくまでその中で完結してるのが残念。


とりあえず、個人的には名作。
「空の中」と比べるとちょっとだけ物足りない気もするけど、それでも十分すぎるほど面白い。
空・海と来たから、次は……山?(爆死)
そういや、「塩の街」が陸だったんだっけか?
となると、三部作(?)でこれで終わりなのかなぁ。
ともあれ、次回作にも期待大。
ハードカバーは好きじゃないですけど、有川さんだけは例外的にハードカバーでもデフォ買いで。