
「Dクラッカーズ7-1 王国-the limited world-」
富士見ミステリー文庫。 (→amazon →bk1)
文句なくシリーズ最高傑作。
いやぁ、これは完全にしてやられたなぁ。
5巻で一区切りで、6巻以降はおまけ(と言うのは違う気もするけど)みたいなものかと思ってたので、まさかここで一気に最高速度まで加速するとは想像もしなかったです。
冒頭、5巻の続きなわけですが。
「大切な想い」を失った梓の描写が良かったですね……
そして、みんなが景への「想い」を薄れさせて行く中で、一人奮闘する千絵がもうね、最高とかいうレベルじゃなく、ビーティフル!<意味不明ですよ
ぶっちゃけ、自分は4人(景、梓、千絵、水原)の中で千絵が一番印象薄くて、一番微妙なキャラだと思ってたのですよ。
(ちなみに、茜や甲斐を入れても一番下だったかな)
その千絵がまさかここまでやれるキャラだったとは、もう完全に想定外で、完膚なきまでにしてやられた感じです。
これまでずっと気に掛かってた「一人だけカプセルを飲んでないことによる弊害」を180度反転させて利点にしてしまうという手法にはもうパーフェクトとしか言いようがないですね。
カプセルを飲んでないから悪魔は一度も見たことない上に、途中まで「悪魔なんてものは存在しない」的な発言をしてたこともあって、物語の終盤まで来ても一人だけ真相というか実際に起きてることを理解してないんじゃないんかって気がしてたんですよね。
今まで、千絵はいつもスポットライトの当たる部分ではなく、そのスポットライトを作り上げる部分にいる感じで。
そのスポットライトの中で奮戦してる景や梓、水原と比べるとどうしても見劣りしてしまう感じでして。
正直ね、ホントに正直に言うと、5巻までは別に千絵はいなくてもいいぐらいに考えてました(爆死)
それがこれですよ。
景を王国から連れ戻すのは、もちろん梓以外にはいないだろうと考えてただけに、実際にそのきっかけを作ったのが千絵というのが何とも言えず。
状況的に「AIR」で喩えると、景と梓が、観鈴と晴子で。
千絵が往人のポジションだと思うのです。
最終的にキーとなるのは梓(晴子)の存在であることは確かだけれど、千絵(往人)がいなかったら、バッドエンドは免れなかったでしょう。
そういう意味で「AIR」における国崎往人と同じくらい、千絵というキャラはこの作品において重要だなーと感じたり。
しかし、一人になっても諦めずに続けていった千絵の印象は変わったなぁ。
いや、元々自分の意見をそう簡単に変えるような性格でないことは分かってたし、こういう状況になった時に千絵だけは絶対に諦めないというのは性格上、別に意外でもなんでもないんだけど。
中盤の、みんなとすれ違っていくシーンとか凄い切ないですよね。
水原が、梓が「景のことなんてどうでもいい」と言うたびに千絵は相当ショック受けてるでしょう。
(ある意味、それは読み手も同じく)
今を、梓や水原達と一緒の生き方を選択すれば、そりゃあもう楽ちんなはずなのに。
それでも、今自分が諦めてしまったら、もう二度と景は戻って来れないと理解してるから。
だから、自分のためにも、みんなのためにも諦めるわけにはいかないという決意はホントにしびれる。
今、仮初の楽な生き方を選んだら、未来に絶対後悔するから、ここで止まるわけにはいかないという意思の強さは純粋に憧れます。
王国へと梓が向かう前に千絵が言った台詞も印象的。
「いい、梓さん。 私は思うの。 世界で一番大切なものや、絶対に譲れない大事なこと。 それはね。 ある日突然、誰かから与えられたりしないの。 どこかからやって来たりしないの。 それは、自分で決めなきゃならないの。 自分でこれが大切って選ばないとできないの。 あなたはそれを選んだわ。 なのに、取り上げられた。 そんな無法、私は許せない。 この、海野千絵は、絶対見過ごせない」
千絵というキャラを端的に表してる台詞ですよね(苦笑)
いや、もうホントに良いキャラだわ(笑)
閑話休題。
王国の話。
黒犬が出てきた時はすぐさま理解しましたね、流石に(苦笑)
なんつーか、ホント喋らなくても相変わらずだなぁ、と(謎)
景と甲斐は一応ライバルという関係ですけど、本編では数回の戦闘シーン以外はほとんど二人の会話とかないんですよね。
元々、景はかなり無口なタイプですし。
このシーンでも会話こそないけど(当たり前ですがw)、何だかこの二人(一人と一匹?)は印象的。
王国に関してはやっぱりどうしても「永遠の世界」を思い浮かべてしまうけど、基本的に両者は構成された過程も含めてやっぱり似てますよね。
多少の違いこそあれど、同じ世界だと言ってもいいくらいで。
個人的に、この作者さんがどこからこのアイディアを得たのか気になるところです(爆死)
「ONE」からというよりは、やっぱり「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」の方が元ネタという可能性の方が高いか。
ま、別にあの作品以外にも似たような設定が描かれてる作品はあると思うけどね。
今回のサブタイトルにある飲まれるってのが、王国のことを指してるんだと思いますが。
直訳すれば「限定された世界」です。
この「限定」と「永遠」の違いを考えると、色々と興味深かったりも。
限定というのは、限りのある「有限の」という意味にも取れて、その点では「永遠」とは相反する言葉だけど。
この限定を「閉じられた」のように受け取ると、変化というものがない「永遠」と同義にもなる。
そんなこんなで、終盤。
この辺まで来ると、もうその勢いに飲まれないようにするのが精一杯というか。
いや、本気でヤバイですよね、この勢いは(苦笑)
バラバラに散らばっていたピースが一つ、また一つと動き出して、一つの名画を完成させていくような感覚。
少しづつ完成していく様を見るのがめっちゃ快感で(爆死)
水原はあっさりと景のことを忘れてしまったような感じでしたけど、ここ数年で言えば、梓よりもずっと一緒に二人で組んでたわけですから。
序盤、あっさりしすぎかなーと思ったけど、後半で一気に挽回。
景の悪魔を借りて(?)召還するシーンとかは鳥肌モノ。
そして、茜。
メールの内容も甲斐らしいし、それを見た茜の反応も想像通りで。
読み進めていって、ここまで興奮してきたのは久しぶり……
もうこれ以上ないってくらいに、みんなが、すれ違ってすれ違って、もうあの頃のようには戻れないかもしれない、というところまで来てたのに。
千絵が、梓が、水原が、茜が、甲斐が、ビーグルが、そしてDDが、みんなが一丸となって向かっていく様ははっきり言ってヤバすぎ。
惜しむらくは前後編というか、次の7-2巻に続くという終わり方。
折角これだけの止めようもない勢いを出せたんだから、一気に駆け抜けて欲しかったです。
分量的に1冊にまとまるはずがないということは分かってますけど、それでもこの勢いを殺さずにラストまで描いてたら、もしかしたら100点満点つけてたかも。
それでも十分すぎる名作だとは思いますがね。