
「空の中」
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これは非常に出来の良い物語ですね。
とりあえず、ライトノベルであると言える要素はかなり薄めな気がします。
まず、挿絵が1枚もないわけですけど。
これがまぁ、何と言うか、何の違和感もないどころか。
むしろ、挿絵が1枚でもあったら評価が下がってた気さえします。
挿絵がないことが作品の魅力になってると思うのは、普段自分が挿絵のあるラノベばかり読んでるからなのかもしれませんが。
キャラに関しても、ほんの少しラノベっぽいと言えなくもない部分はあるけど、概ねラノベのような記号的・属性的なキャラ作りはされてない感じ。
主人公の幼馴染にしても、特別萌え要素を作らずに比較的淡々と描写してる感じで。
いかにも狙って作られたような感じがしないのは好印象。
読み始める前はかなり分厚く見えるハードカバーということで、読み終わるまでに1週間はかかるかなーと思ってましたけど、実際読み始めてみるとそんなこともなくて。
結局、3,4日程度で読めたのが意外。
ハードカバー作品でありながらも、ラノベ的な読みやすさがしっかりと残されている点も素晴らしい。
デビュー作である「塩の街」は「今年の大賞もこんなものか」という感じだったんですよね。
どちらかと言えば前年の大賞受賞作の「キーリ」の方がまだ高評価だったぐらいで。
自分の有川浩という作家の評価は新人としては普通レベルだったんですけど。
この「空の中」を読んで一気に評価急上昇しました。
これは普通の新人が書けるレベルじゃないです。
どこが良かったのか、具体的に言葉で言い表すのが難しいんですけど。
簡潔に言えば、世界観と、空の中にいる未確認生物の設定と、キャラクター。
世界観に関しては基本的に現実世界をほぼそのままトレースしてると考えて良いと思います、政府の打算的対策とかがいかにも現実的(苦笑)
あと、舞台の一つとして高知が出てくる関係上、高知の言葉を使うキャラがいて、そういうのもリアルだなぁ、と。
(有川浩さんは高知育ちらしいです)
文章で高知の言葉とか最初は「ちょっと読みづらいかな」と思ったんですけど、ずっと読んでると味が出てくるというか、言葉というのはキャラに個性を持たせる上で非常に重要なんだなぁ、と実感。
高知の言葉で喋るのは主に宮じいというキャラなんですけど、この宮じいが物凄くツボ。
ぶっちゃけ、小説読んで爺さんキャラがツボに入るとは思わなかったですよ(爆死)
「塩の街」もそうだったけど、有川浩さんは年齢が高めのキャラを描くのが上手いです。
ラノベだと大抵は少年少女が主人公で、物語も少年少女を中心に描かれることが多い(というか、ほぼ全てのラノベがそうである)だけに、しっかりとした「大人」キャラを魅力的に描けるというのは他の作家には真似できない最大の長所だと思う。
宮じい以外のキャラでは高巳がお気に入り。
終盤の真帆達との交渉の席とかで、真帆から見て典型的な憎たらしい悪役を演じてるところとか、すげぇ好き。
一見ちょっと適当に生きてる普通の良い人に見えて、その実、常にさまざまなことをしっかりと計算してる感じが良いね。
光稀の方は……悪くはないんだけど、唯一狙ってるキャラっぽい感じがするのがあんまり好きじゃなかったり(汗)
最後の告白のシーンとか、あからさますぎる気がするんですよねぇ。
高巳の告白の仕方は嫌いじゃないけど、それに対する反応とかが……いわゆる「萌え」という言葉で言い表せてしまうのが嫌い。
折角、ラノベ的な要素を極力排してるのに、簡単に「光稀萌え~」なんて感想が出てくるのが気に入らないのですよ。
敢えてやってるのかもしれないけど、自分にはどうにも邪魔っぽく思えて……
佳江と瞬についてはごく普通の、記号的じゃないリアルな幼馴染という感じで、最後のシーンも違和感なかったんですけどねぇ。
で、真帆は……王道っぽい憎まれ役。
この物語における嫌な部分を一身に背負ってるというか。
微妙に立場が違えば、光稀と同じく狙ってるキャラとも取れなくないんですけど。
今回の話の中ではある意味ラスボス(謎)的な扱いになってるので、萌えとか、そういう安易な印象を抱かせない点で光稀よりも好きかな。
大人側にも子供側にも属さない(どちらにも属せない)中途半端な位置づけが可愛そうではあったけど、ラストではしっかりと救いを与えてる点がこの物語の一番のポイントだと自分は思う。
物語の主役は高巳と光稀と、瞬と佳江であることは間違いないですけど、その物語をきっちり締めくくる役割を持ったのが真帆と宮じいであり。
もしも、この二人がいなかったら、中盤までは何の問題もなく進められても、終盤で物語が破綻してたはず。
全編を通して出番のあるキャラではないけど、物語の進行上とても重要なキャラだと思う。
あとは、空の中にいる未確認生物。
これはまぁ、実際に読んでもらった方が理解しやすいと思うし、読んでない人にあんまり多くを語ることは意味がないと思うので詳しくは触れませんが。
概念で生きる的な設定は非常に面白い。
「概念」っていうと、「終わりのクロニクル」とかが思い浮かびますけど、ああいう概念云々という、ある意味言葉遊び的なものが好きな人ならこの作品も気に入る可能性高いかも。
そんなに深いところまで掘り下げてるわけでもないので、過剰に期待しすぎるとがっかりするかもしれないけどね(苦笑)
結論。
「塩の街」の世間的な評価は「前半は良かったのに、後半展開が急に早くなってイマイチまとまりがなくなってしまった」という感じですが、自分はわりと逆の意見でして。
(詳しくは「塩の街」の感想を参照)
前半も悪くないけど、後半の方が主題であり、有川さんが書きたかったことも後半に詰まってるとすれば、前半を多少短くしてでも後半を充実させるべきだったと。
そういう不満が今回の「空の中」ではきっちり解消されて、一つの物語としてこれ以上ないくらい上手くまとめられてるのが一番のポイントでしょうね。
あとは、もうとにかく読んでる間中ずっと面白いんで、読むのを中断するのが惜しいくらいでした。
普通の人ならこのボリュームでも1日2日で読み終わる気がしないでもないなぁ。
自分はゲームにしろ小説にしろアニメにしろ、連続して長時間は集中力が続かない人なので、一気に読みきるというのはちょっと無理でしたけど。
とにかく、電撃は何とも貴重な作家を発掘しましたね。
某スニーカー文庫の谷川流氏の時も同じことを思ったけど、やっぱり大賞とかの選考委員の見る目は一般人とは違うんだなぁ、ということを改めて実感。
どちらの作品も最初こそ「これで大賞?」ってな疑問符を投げかけたくなるものだったけど、きっちりとその後の作品で「やっぱり大賞受賞者は違うな……」というところを見せてくるのが流石。
有川さんは既に次回作「海の底」の執筆をされているようで、発売は早ければ春頃になるのかな。
何にしろ、デフォ買いは確定。
個人的意見としては、ハードカバーよりもやっぱり文庫で出して欲しいという気もするんですけどねぇ。
いや、ハードカバーの利点っつーのも分かるんですけど、ハードカバーだと電車の中とかで読みづらいし。
文庫なら吊革掴まりながら立って読むことも出来るけど、ハードカバーでそれは激しく無理だし(苦笑)
読む場所が基本的に家の中とか落ち着いた場所に限定されちゃうのが、ちょっと勿体無い。
最後に、わりとどうでもいいことなんですけど気になったので書いておきます。
巻末のプロフィールに主婦とか書いてあって、「有川さんって女性だったのか!」と素で驚いてしまいました。
えぇ、ずっと男性だと思ってましたよ……
「塩の街」のあとがきを読み返したら、「夫」とか出てきてるので、ファンなら当たり前に知ってることだったのかー
だって、有川浩とかペンネームだけ見たら絶対男だって思いますよね!?
内容もあんまり女性っぽくない感じだし、言われなきゃ絶対男性だと誤解するような気がするんだけどなぁ(苦笑)